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井月現る(せいげつあらわる)
伊那の放浪俳人

「井月現る」について

「井月現る(せいげつあらわる) 伊那の放浪俳人」について

■ 「井月現る(せいげつあらわる)」

〜伊那の放浪俳人〜のご紹介

「井月現る(せいげつあらわる)」 伊那の放浪俳人


著者:今泉恂之介
2014年8月発売
定価:本体価格1600円+消費税

「井月現る(せいげつあらわる)」 伊那の放浪俳人

小林一茶以後、正岡子規に至る約100年間は、長らく俳句史の「空白期」とされてきた。
子規がこの時代の俳句を「陳腐卑俗」「月並調」と批判し、後の俳句史家もこれに追随したからだろう。しかしこの時代にも数多くの「秀句」「佳句」が存在していた。その代表的な作り手が「伊那の放浪俳人」と呼ばれる井上井月である。
井月は30歳代の半ば、信州の伊那地方に現れ、約30年間の後半生をこの地で送った。 和漢・西欧の学問に優れ、芭蕉の流儀による正統的な句をたくさん残した。伊那に数100人の弟子を持っていたが、自分の生まれや経歴などは一切、語らなかった。人に明かせぬ何かを抱えていたのかも知れない。 酒を好み、知り合いの家を泊り歩き、野宿もいとわず、老いへの道をたどっていく。

没後30余年、伊那出身の医師・下島勲が「井月の句集」を自費出版した。
芥川龍之介が俳句と書の素晴らしさを認め、東京の俳人や文化人の間で一定の評価を得るようになる。しかし芥川の自殺により、井月への関心は尻つぼみにならざるを得なかった。

ところが没後120年余り、2010年頃からブームと呼ぶべき“井月現象”が始まった。 彼の後半生を描いた映画「ほかいびと 伊那の井月」が完成。
岩波文庫が一茶−子規の間の空白を埋めるかのように「井月の句集」を刊行した。俳句雑誌が井月特集を組み、東京で行われた「井月忌俳句会」に数100人の俳人が集まるほどになった。
井月編「俳諧三部集」の翻刻などによって「知られざる井月」の姿が次々に表れている。 京都、江戸、東海、東北などへの旅も見えてきた。俳句史の空白期とされる幕末・明治初期の闇の中から、井月がようやく姿を現したのである。
新たな井月探索は、これからも続いて行くに違いない。

著者:今泉恂之介(いまいずみ・じゅんのすけ)経歴
1962年 上智大学独文科卒業後、日本経済新聞社入社
1990年 日本経済新聞社論説委員。コラム「春秋」を担当
1997年 中国河南省鄭州大学客員教授
1999年 流通経済大学教授(現代文章論・メディア論)
2007年 俳句振興を目的とした日本初のNPO法人「双牛舎」を立ち上げ、
     大澤水紀雄氏(俳号・水牛)とともに代表理事に就任。
著書 「子規は何を葬ったのか―空白の俳句史百年」(新潮選書)
    句集「大陸春秋」(NPO法人双牛舎)など